都市部で見られる身近なセミ3種(アブラゼミ、ミンミンゼミ、クマゼミ) 見分けに迷ったらココを確認
夏の盛り、都市部の公園や街路樹からは様々なセミの声が降り注ぎます。その賑やかな声こそが夏の風物詩であり、私たちに季節の到来を告げてくれます。身近な存在でありながら、いざ「このセミは何という種類だろう」と考えたとき、見た目や鳴き声が似ていて判断に迷うこともあるかもしれません。
この記事では、都市部やその近郊で特によく見られる代表的なセミであるアブラゼミ、ミンミンゼミ、そして近年都市部でも増加傾向にあるクマゼミの3種に焦点を当て、それぞれの特徴と同定のポイントを分かりやすく解説いたします。これらのセミの見分け方をマスターすれば、夏の日の昆虫観察がさらに楽しくなることでしょう。
アブラゼミ、ミンミンゼミ、クマゼミの基本的な特徴
まずは、それぞれのセミの基本的な外見と鳴き声の特徴を確認しましょう。
アブラゼミ (Graptopsaltria nigrofuscata)
- 外見: 体の色は全体的に茶褐色から黒褐色です。最も特徴的なのは翅(はね)で、半透明ですが濃い茶色の油膜のような模様があり、翅脈(しみゃく)も褐色です。これにより、翅全体がやや不透明に見えます。体長はオス、メスともに55-62mm程度で、中型のセミです。
- 鳴き声: 「ジージー」あるいは「ジリジリ」と聞こえる連続した大きな声で鳴きます。まるで油を熱しているような音に例えられることから「アブラゼミ」と名付けられたと言われています。
- 活動時間: 主に日中の明るい時間帯に活発に鳴きます。
ミンミンゼミ (Oncotympana maculaticollis)
- 外見: 体の色は鮮やかな緑色を基調とし、黒い複雑な模様が入ります。この緑と黒のコントラストが美しいセミです。翅は全体的に透明で、翅脈は緑色や黒色です。体長はオス、メスともに60-70mm程度で、アブラゼミよりやや大型です。
- 鳴き声: 「ミーンミンミンミンミー…」という特徴的な声で鳴きます。まるで「ミンミン」と繰り返しているように聞こえます。
- 活動時間: 主に午前中、特に早朝から午前中にかけて活発に鳴く傾向があります。
クマゼミ (Cryptotympana facialis)
- 外見: 体の色は光沢のある漆黒色で、非常に大型のセミです。体長はオス、メスともに60-70mm程度、個体によっては80mmに達するものもおり、日本のセミとしては最大級です。翅は全体的に透明で、翅脈は黒く目立ちます。前翅の付け根付近がやや黄色や褐色を帯びることがあります。
- 鳴き声: 「シャワシャワ」あるいは「ワシワシ」と聞こえる大音量で連続的に鳴きます。力強い印象の鳴き声です。
- 活動時間: 主に日中、特に気温の高い時間帯に活発に鳴きます。南方系のセミですが、温暖化の影響もあり関東地方などでも都市部を中心に分布を広げています。
見分けに迷ったらチェックするポイント
これらのセミはそれぞれ特徴的ですが、初心者の方には見分けが難しい場合があります。特に意識して観察したいポイントを以下に示します。
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翅の色と透明度:
- アブラゼミ: 翅は茶色で油膜状に見え、不透明です。
- ミンミンゼミ: 翅は透明で、翅脈が緑色や黒色です。
- クマゼミ: 翅は透明で、翅脈は黒く太めです。アブラゼミのように茶色く濁ることはありません。 この翅の透明度と色合いは、3種を見分ける上で最も分かりやすいポイントの一つです。
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体の色と模様:
- アブラゼミ: 全体的に茶褐色~黒褐色で、あまり派手な模様はありません。
- ミンミンゼミ: 鮮やかな緑色と黒い模様の組み合わせです。
- クマゼミ: 光沢のある漆黒色です。模様はほとんどありません。 ミンミンゼミの緑色は非常に特徴的で、遠目でも識別しやすいでしょう。アブラゼミとクマゼミはどちらも暗い色ですが、アブラゼミは茶系、クマゼミは黒系であり、光沢の有無も異なります。
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体の大きさ:
- アブラゼミとミンミンゼミは似たような大きさですが、クマゼミはそれらよりも一回り大きいことが多いです。ただし、個体差もあるため、これだけで判断するのは難しい場合もあります。
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鳴き声:
- それぞれの鳴き声は非常に特徴的です。「ジージー」(アブラゼミ)、「ミーンミンミン」(ミンミンゼミ)、「シャワシャワ/ワシワシ」(クマゼミ)と、耳で覚えるのが最も簡単な見分け方かもしれません。鳴いているセミを観察すれば、鳴き声と見た目の両方で確実に同定できます。
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鳴いている時間帯:
- ミンミンゼミは午前中に活発であることが多いですが、アブラゼミやクマゼミは日中を通して鳴きます。鳴いている時間帯も同定の参考になる可能性がありますが、気候条件などによって変動するため、決定的な要素とはならない点に注意が必要です。
セミの生態
セミは卵からかえった後、地中で数年(アブラゼミやミンミンゼミは3-5年、クマゼミはさらに長いとされることも)を幼虫として過ごし、木の根から汁を吸って成長します。十分に成長すると梅雨明け頃から地上に現れ、木に登って最後の脱皮(羽化)を行い、成虫になります。
成虫の寿命は非常に短く、わずか1週間から数週間と言われています。成虫の目的は子孫を残すことであり、オスは大きな声で鳴いてメスを呼び寄せます。交尾を終えたメスは木の枝などに産卵します。
セミの幼虫の脱け殻は、夏の昆虫観察の格好の対象となります。セミの種類によって脱け殻の形や大きさに若干の違いがありますが、慣れるまでは脱け殻での同定はやや難しいかもしれません。まずは成虫での観察から始めるのが良いでしょう。
セミ観察のコツと注意点
- 観察場所: 都市部では公園の大きな木、神社の境内、街路樹などにセミは多く生息しています。特に、アブラゼミは乾燥した場所を好む傾向があり、ミンミンゼミは比較的涼しい場所、クマゼミは暖かい場所を好むと言われますが、都市部では混生している場所も多いです。
- 見つけ方: 高い木の幹や枝に静止していることが多いですが、地面に落ちていることもあります。脱皮直後の成虫はまだ体が柔らかく、低い場所にいることもあります。鳴き声のする方向を探すのが効果的です。
- 観察時のマナー: セミは光や音に敏感なため、観察する際は静かに近づきましょう。捕まえたい場合は、専用の網を使用し、無理に手で掴んだり、翅を傷つけたりしないよう注意してください。
- 安全に観察: 夏の炎天下での観察は熱中症のリスクがあります。帽子をかぶり、水分補給をこまめに行いましょう。また、高い場所にいるセミを無理に追いかけたり、危険な場所に立ち入ったりすることは避けてください。
まとめ
都市部でよく見られるアブラゼミ、ミンミンゼミ、クマゼミは、それぞれの翅の色や透明度、体の色、そして特徴的な鳴き声によって見分けることができます。特に、アブラゼミの不透明な茶色の翅、ミンミンゼミの鮮やかな緑と透明な翅、クマゼミの漆黒の体と透明な翅は、慣れれば容易に識別できるポイントです。
夏の暑い日、セミたちの賑やかな声に耳を傾け、その姿を観察してみてください。今回ご紹介した見分け方を参考に、それぞれのセミが持つ個性豊かな姿や生態に触れることで、身近な自然への理解がさらに深まることと思います。安全に注意しながら、夏の昆虫観察を楽しんでいただければ幸いです。