都市部で見られるアキアカネとナツアカネ 見分けに迷ったらココを確認
はじめに
秋の気配を感じ始めると、田んぼの周辺や公園の開けた場所などで、たくさんの赤とんぼが飛んでいる姿を目にするようになります。その中でも、都市部や近郊で最も一般的で、よく似ていて見分けに迷うことが多いのが、アキアカネとナツアカネです。
どちらも「赤とんぼ」として親しまれていますが、分類上は同じアカネ属に含まれる別の種類です。この2種を正確に見分けることは、昆虫観察の楽しみを深める第一歩となります。この記事では、アキアカネとナツアカネの見分け方のポイントを中心に、生態や観察のコツをご紹介します。
アキアカネとナツアカネの特徴と見分け方
アキアカネとナツアカネは非常に似ていますが、注意深く観察すれば確実に見分けることができます。同定のための重要なポイントをいくつかご紹介しましょう。
翅の付け根の脈の色
最も確実で、比較的わかりやすい見分け方は、翅の付け根付近にある脈の色です。
- アキアカネ: 前翅の先端近くにある縁紋のすぐ下から、翅の付け根に向かって伸びる太い翅脈(亜前縁脈など)が黄色っぽい色をしています。特に成熟した個体で見ると、その黄色みがはっきり分かります。
- ナツアカネ: 同じ場所の翅脈が黒っぽい色をしています。アキアカネのような黄色みはありません。
この翅脈の色は、個体の成熟度や体色に関わらず比較的安定した特徴であるため、慣れれば翅の色だけで見分けられるようになります。
胸部の模様
胸部の側面にある黒い筋模様も、見分けの参考になります。
- アキアカネ: 胸部の側面に、黒くて太い筋が3本入っています。
- ナツアカネ: 胸部の側面の黒い筋は、アキアカネに比べて細めで、特に中央の筋は比較的細く、個体によってはほとんど目立たないこともあります。
ただし、この模様は個体差や角度によって見え方が異なる場合があるため、翅脈の色ほど確実な判断基準ではないことに留意してください。
腹部の太さ
成虫の腹部の形状にもわずかな違いが見られます。
- アキアカネ: 腹部はナツアカネに比べて、比較的細く、やや平たい印象があります。
- ナツアカネ: 腹部はアキアカネに比べて、やや太く、ずんぐりした印象があります。
この違いも、他の特徴と組み合わせて判断する補助的な基準として役立ちます。
成熟に伴う体色の変化
オスは成熟すると全身が赤く色づきますが、メスはあまり赤くならず、黄色っぽい体色のままのことが多いです。体色の赤みが強いかどうかだけでは種類を特定できませんが、成熟の度合いを知る上での目安にはなります。どちらの種類も、若い個体はオス・メスともに体色が黄色っぽい傾向があります。
まとめると、アキアカネとナツアカネの見分けで最も重要なのは、翅の付け根の太い翅脈の色が黄色っぽいか(アキアカネ)、黒っぽいか(ナツアカネ)であると言えます。まずはこのポイントに注目してみてください。
アキアカネとナツアカネの生態
アキアカネとナツアカネは、日本の多くの地域で見られる身近なトンボですが、その生態には少し違いがあります。
- 活動時期: どちらも成虫は主に夏から秋にかけて活動します。「赤とんぼ」として見られるのはこの時期です。
- 生息場所: アキアカネは平地から山地まで幅広い環境で見られますが、特に羽化後に山地の涼しい場所へ移動し、秋に再び平地に戻ってくる「移動」を行うことで知られています。ナツアカネは主に平地の池や湿地、田んぼなどに生息し、大規模な移動はしないと考えられています。都市部で夏の間から水辺で見られる赤とんぼは、ナツアカネの可能性が高いと言えます。アキアカネは秋になってから都市部や近郊の平地で多く見られるようになります。
- ライフサイクル: どちらの種類も、水中のヤゴとして数年を過ごし、夏に羽化して成虫になります。成虫は肉食で、蚊やハエなどの小さな昆虫を捕食します。水田が減少したことや、農薬の影響などにより、アキアカネの数はかつてより減っていると言われています。
観察のコツと注意点
アキアカネやナツアカネを観察する際のコツと注意点をご紹介します。
- 観察に適した場所: 平地の池や沼、水田跡、公園の広い場所、河川の緩やかな流れの周辺などが探しやすい場所です。特に水辺の近くや、日当たりの良い開けた場所でよく見られます。
- 観察に適した時期: アキアカネ、ナツアカネともに成虫は夏から秋にかけて見られます。特にアキアカネは秋に数が多くなります。
- 近づき方: トンボは飛んでいる小昆虫を捕らえるため、動くものに敏感です。急な動きをせず、ゆっくりと近づくように心がけましょう。日当たりの良い場所で、葉の先などに止まっている個体を探すと、比較的容易に翅や胸部の模様を観察できます。
- 安全な観察: 水辺での観察は、足元に十分注意してください。特に田んぼの畦道などは滑りやすかったり、ぬかるんでいたりすることがあります。夏の暑い時期は熱中症にも気をつけ、水分補給を怠らないようにしましょう。観察に夢中になりすぎず、周囲の状況を確認しながら楽しんでください。
まとめ
アキアカネとナツアカネは、都市部でも身近に観察できる魅力的なトンボです。似ているからこそ、そのわずかな違いを見分けることが、観察の醍醐味の一つとなります。最も重要な見分けのポイントは、翅の付け根の翅脈の色です。
まずはこの特徴を手がかりに、目の前を飛んでいる赤とんぼがどちらの種類なのか、じっくり観察してみてください。図鑑の写真と見比べながら、翅脈の色や胸部の模様、腹部の形などに注目することで、きっと正確な同定ができるようになるはずです。身近な場所で、新たな発見をする喜びをぜひ体験してください。