都市部で見られるアサヒナカワトンボとニホンカワトンボ 見分けに迷ったらココを確認
都市近郊の水辺で見られるカワトンボの仲間
都市部やその近郊を流れる比較的きれいな河川や水路、あるいはそれに隣接する池などで昆虫観察をしていると、優雅な姿のカワトンボの仲間を見かけることがあります。翅が広く、ひらひらと舞うように飛ぶ姿は、アキアカネやシオカラトンボといった一般的なトンボとは趣が異なります。
日本に生息するカワトンボ属の仲間は複数種いますが、特に都市近郊で見かける機会が多いのが、アサヒナカワトンボとニホンカワトンボの二種です。これらは非常によく似ており、図鑑の写真だけではどちらの種なのか判別に迷うことも少なくありません。
この記事では、アサヒナカワトンボとニホンカワトンボを確実に見分けるための具体的なポイントを、写真だけでは伝わりにくい文章での特徴説明を交えて解説します。
アサヒナカワトンボとニホンカワトンボを見分けるポイント
アサヒナカワトンボとニホンカワトンボは、どちらも体長は5〜6センチメートル程度、翅を広げた幅は7〜8センチメートル程度で、大きさはほぼ同じです。主な見分けのポイントは、翅の色や模様、そして体色に見られます。
翅の色と模様
カワトンボ属の大きな特徴は、オスとメスで翅の色が大きく異なる場合が多いことです。アサヒナカワトンボとニホンカワトンボも例外ではありません。
- アサヒナカワトンボのオス: 成熟したオスは、翅全体が褐色から茶色に色づきます。特に前翅と後翅の付け根から先端にかけて、比較的一様に色が乗る傾向があります。この色合いは個体や成熟度によって濃淡があり、若い個体ではやや薄い色をしています。
- ニホンカワトンボのオス: ニホンカワトンボのオスも、成熟すると翅に色がつきますが、アサヒナカワトンボとは色や範囲が異なります。多くの場合、翅の先端部分(翅端)が褐色に色づき、それ以外の部分は比較的透明に近いか、ごく薄い褐色にとどまります。この「翅端にだけ色がある」という特徴が、アサヒナカワトンボのオスと見分ける上で最も分かりやすいポイントの一つです。ただし、地域や個体によっては翅全体が薄く色づくものもおり、注意が必要です。
- アサヒナカワトンボのメス: アサヒナカワトンボのメスの翅は、基本的に透明です。しかし、ごく薄い褐色の斑紋が散在することがあります。特に、翅の縁に沿って色の薄い部分が見られたり、個体によっては翅の中央付近にごく淡い黄褐色の斑紋が出現したりする場合もあります。全く無斑で透明なメスもいます。
- ニホンカワトンボのメス: ニホンカワトンボのメスの翅も透明ですが、アサヒナカワトンボのメスとは異なり、通常は翅に目立った斑紋はありません。完全に透明に近い翅を持つ個体が多いです。ただし、ごく稀に翅全体が非常に薄い褐色を帯びる個体も報告されています。
オスは翅の色づき方で比較的容易に見分けられますが、メスはどちらも透明に近い翅を持つため、他の特徴も合わせて確認する必要があります。
体色
体色も識別の参考になります。ただし、カワトンボの体色は成熟度や光の当たり方によって見え方が変わるため、あくまで補助的な判断材料としてください。
- アサヒナカワトンボ: オス、メスともに、成熟すると体全体が金属光沢のある緑色や青緑色を帯びることが多いです。光の当たり方によっては、明るい緑色に見えたり、深い青緑色に見えたりします。腹部の先端は黒っぽくなる傾向があります。
- ニホンカワトンボ: オス、メスともに、成熟すると体全体が金属光沢のある銅色や赤銅色、あるいは金緑色を帯びることが多いです。アサヒナカワトンボのような鮮やかな緑色や青色というよりは、やや渋みのある、あるいは赤みがかった金属光沢を持つ傾向があります。こちらも光の当たり方で見え方が変化します。
翅の色が未熟で判断が難しい若い個体やメスを識別する際には、この体色の傾向も参考にすることができます。金属光沢の色合いを注意深く観察してみてください。
生態について
アサヒナカワトンボ、ニホンカワトンボともに、幼虫(ヤゴ)は河川などの水中で生活し、水生昆虫などを捕食して成長します。成虫は、水辺の植物にとまっていることが多く、他の小さな昆虫を捕まえて食べます。
活動時期は、地域にもよりますが、初夏頃から羽化が始まり、夏を経て秋頃まで見られます。特に成熟したオスは、縄張りを持つ傾向があり、水辺の開けた場所で他のオスを追い払う姿が観察されることがあります。メスはオスに比べてあまり活発に飛ばず、水辺の植物の陰などに潜んでいることが多いです。
繁殖期には、オスがメスに求愛行動を行い、交尾を終えたメスは水中の植物組織や枯れ木などに産卵します。
観察のコツと注意点
カワトンボを観察する際は、比較的流れのある清らかな河川や、それに繋がる水路、周辺の草むらなどを探してみましょう。晴れて風のない日中は活発に活動する姿を見やすい傾向があります。
- 近づき方: カワトンボはあまり警戒心が強くない種類もいますが、急に近づくと飛び立ってしまいます。ゆっくりと、気配を消すように距離を詰めてみてください。
- 写真撮影: 特徴である翅の色や体色がよく分かるように、横からの写真や、光の当たり方が良い角度で撮影を試みましょう。複眼の色や腹部の色合いなども識別のヒントになることがあります。
- 環境への配慮: 観察する際は、水辺の植物を踏み荒らしたり、ゴミを捨てたりしないよう注意しましょう。生息環境を保全することが、彼らの姿をいつまでも見られるようにするために重要です。
- 安全対策: 水辺は足元が滑りやすかったり、転落の危険があったりします。安全な場所で観察し、熱中症や虫刺されなどにも注意しましょう。
まとめ
アサヒナカワトンボとニホンカワトンボの見分けは、特にオスでは翅の色づき方(全体が褐色か、先端だけが褐色か)が最も分かりやすいポイントです。メスや若い個体では、体色の金属光沢の色合い(緑青系か、銅赤系か)も参考になります。
これらの特徴を注意深く観察することで、二種類のカワトンボを見分けることができるようになります。水辺の美しい姿のカワトンボを観察し、その識別に挑戦してみるのも、昆虫観察の楽しみの一つとなることでしょう。