都市部で見られる身近なコオロギ2種(エンマコオロギ、ツヅレサセコオロギ)見分けに迷ったらココを確認
都市部の公園や庭先、草むらで、秋の気配を感じさせる美しい鳴き声を聞いたことがあるでしょうか。その声の主は、多くの場合コオロギです。中でも私たちの身近にいる代表的な種類に、エンマコオロギとツヅレサセコオロギがいます。
これら二種はよく似ており、パッと見ただけでは見分けが難しいと感じるかもしれません。しかし、鳴き声や体の細部を注意深く観察することで、それぞれの種を正確に同定することが可能になります。ここでは、都市部で見られるエンマコオロギとツヅレサセコオロギを見分けるための具体的なポイントを解説いたします。
エンマコオロギとツヅレサセコオロギの特徴と見分け方
エンマコオロギとツヅレサセコオロギは、どちらも体長2.5〜3.5センチメートル程度の大型のコオロギです。全体的に黒褐色をしており、ずんぐりとした体型をしています。似ているからこそ、細部を比較することが重要です。
1. 鳴き声による見分け方
最も分かりやすく、同定の第一歩となるのが鳴き声です。鳴くのはオスのみで、前翅(ぜんし)をこすり合わせて音を出します。
- エンマコオロギ: 「リッ、リッ、リッ…」と、比較的単純で規則正しい音を繰り返し鳴らします。連続する短い音で構成されており、単調ながら力強い印象です。
- ツヅレサセコオロギ: 「ツヅレサセ、ツヅレサセ…」あるいは「シリリ、シリリ…」と聞こえる複雑な鳴き声です。「ツヅレサセ」は「綴(つづ)れさせ」と聞きなされ、衣の綻びを繕えという意味にとられたことから名がついています。この物語性のある鳴き声が特徴です。
鳴き声が聞える時期は主に夏から秋にかけてですが、最盛期は秋、特に夜間によく鳴きます。静かに耳を澄ませてみましょう。
2. 形態による見分け方
鳴き声が聞えない場合や、より確実に同定したい場合は、捕まえるか静かに観察して体の特徴を確認します。
- 頭部:
- エンマコオロギ: 頭部が比較的大きく、丸みを帯びています。横から見るとぷっくりとした印象です。
- ツヅレサセコオロギ: エンマコオロギに比べて頭部がやや小さく、縦長の印象を受けることがあります。
- 前翅(鳴き翅): オスに特徴的に見られる鳴き声を作るための翅です。
- エンマコオロギ: オスの前翅の翅脈(しみゃく:翅にある筋状の構造)は複雑で、網目状の模様が発達しています。鳴き声発生器となる「ヤスリ」や「バチ」の部分が比較的目立ちます。
- ツヅレサセコオロギ: オスの前翅の翅脈はエンマコオロギほど複雑ではなく、比較的直線的な翅脈が目立つ傾向があります。鳴き声発生器の部分もやや異なります。
- 産卵管(メス): メスの腹部後方にある、細長い管状の器官です。土の中に卵を産み付けるために使われます。
- エンマコオロギ: 産卵管は、後脚の腿節(たいせつ:一番太い部分)よりもやや長い程度です。
- ツヅレサセコオロギ: エンマコオロギに比べて産卵管が明らかに長く、後脚の腿節を優に超える長さがあります。この違いは比較的明確な見分けポイントとなります。
- 尾角(びかく): 腹部後方から伸びる一対の突起です。「しっぽ」のように見えます。
- どちらの種もほぼ同じような形状ですが、ツヅレサセコオロギの方がわずかに長いという資料もあります。ただし、個体差も大きいため、決定的な見分けポイントとしては産卵管や鳴き声の方が確実です。
生態について
エンマコオロギとツヅレサセコオロギは、どちらも主に草地や畑、河川敷、都市部の公園や空き地といった、草丈がある程度高く隠れる場所がある環境に生息しています。夜行性で、日中は草の根元や石の下、落ち葉の下などに隠れて過ごし、夕方から夜にかけて活動し、鳴き声を聞かせます。
食性は雑食で、植物の葉や種子、草の根などを食べるほか、小昆虫の死骸なども食べます。秋に成虫になった後、メスは土の中に産卵管を差し込んで卵を産み付けます。卵の状態で冬を越し、翌春に孵化して幼虫となります。幼虫は脱皮を繰り返して大きくなり、夏から秋にかけて成虫になります。
観察のコツと注意点
エンマコオロギやツヅレサセコオロギを観察する際は、以下の点に注意すると良いでしょう。
- 鳴き声で探す: まずは夕方から夜にかけて、草むらに耳を澄ませてみましょう。鳴き声の聞こえる方向を探り、少しずつ近づいていくと、鳴いているコオロギを見つけられることがあります。
- 静かに近づく: コオロギは非常に敏感で、足音や振動ですぐに鳴き止んで隠れてしまいます。気配を消し、ゆっくりと、時には立ち止まりながら近づくのがコツです。
- 隠れ場所を探す: 声はすれども姿は見えない、という場合は、鳴いていると思われる場所の草の根元、落ち葉の下、石やコンクリートブロックの隙間などを静かに探してみてください。
- 夜間の観察: 主に夜に活動するため、夜間観察が中心になります。懐中電灯を使う際は、直接コオロギを照らすのではなく、周辺をぼんやりと照らすか、赤色のセロハンなどを懐中電灯につけると逃げにくいと言われています。ただし、フラッシュ撮影はコオロギを驚かせてしまう可能性が高いので注意が必要です。
- 安全に配慮する: 夜間、特に公園や河川敷などの屋外で観察する際は、足元に注意し、不審な人物や危険な場所には近づかないようにしましょう。一人での観察は避け、複数人で行うのがより安全です。
- 自然を尊重する: むやみに捕まえたり、生息環境を破壊したりすることは避けましょう。観察後はそっと元の場所に戻すか、自然の状態を保つように心がけてください。
まとめ
都市部で見られるエンマコオロギとツヅレサセコオロギは、秋の夜長を彩る身近な鳴く虫です。鳴き声や体の細部、特にメスの産卵管の長さに注目することで、両種を見分けることができます。
図鑑やインターネット上の情報だけでなく、実際にフィールドに出て観察し、鳴き声を聞き比べることで、より深く彼らの世界を知ることができるでしょう。ぜひ、秋の澄んだ空気の中で、彼らの美しい音色に耳を傾け、その姿を探してみてください。