都市部で見られるギンヤンマとクロスジギンヤンマ 見分けに迷ったらココを確認
都市部で見られるギンヤンマとクロスジギンヤンマの見分け方
都市部やその近郊の公園、庭園の池などで、体長7〜8cmにもなる大型のトンボが高速で飛び回る姿を見かけることがあります。多くの場合、それはギンヤンマかクロスジギンヤンマのどちらかです。これらの大型ヤンマは姿がよく似ているため、見分けるのに少し迷うかもしれません。
この記事では、ギンヤンマとクロスジギンヤンマを正確に見分けるためのポイントと、それぞれの生態や観察のコツをご紹介します。図鑑の情報に加え、現場での観察に役立つ実践的なヒントを盛り込みましたので、ぜひトンボ観察にお役立てください。
ギンヤンマとクロスジギンヤンマの特徴と見分け方
ギンヤンマ(学名:Anax parthenope julius)とクロスジギンヤンマ(学名:Anax panybeus)は、どちらもヤンマ科に属する大型のトンボです。飛ぶスピードが速く、なかなか静止してくれないため、飛んでいる姿で見分けるのは難しいですが、もし葉にとまるなどしてくれたら、以下の点を確認してみましょう。
1. 胸部の模様を確認する
最もわかりやすい見分け方のポイントの一つは、胸部の側面の模様です。
- ギンヤンマ: 胸部の側面は、鮮やかな青緑色や緑色をしており、目立った黒い筋や模様はほとんどありません。光沢のある滑らかな印象を受けます。
- クロスジギンヤンマ: 胸部の側面は、ギンヤンマと同様に緑色ですが、前脚の付け根あたりから後ろに向かって、太くはっきりとした黒い筋(模様)が入っています。この「クロスジ」が名前の由来であり、大きな特徴です。まるで筆で線を引いたかのような、目立つ黒い帯が見えるはずです。
この胸部の側面の黒い筋があるかないかで、多くの場合、ギンヤンマかクロスジギンヤンマかを見分けることができます。
2. 腹部の色と模様を確認する
次に、腹部の色や模様にも違いが見られます。特に、腹部の付け根に近い部分(第2節や第3節)に注目します。
- ギンヤンマ: オスの腹部は、付け根近くが鮮やかな水色(銀青色)をしており、その後ろは黒くなります。この「銀色」に見える腹部が名前の由来とも言われます。メスは全体的に緑色を帯びることが多いです。腹部第3節のくびれが比較的はっきりしています。
- クロスジギンヤンマ: オス・メスともに腹部は緑色を帯びた色で、ギンヤンマのオスのような鮮やかな水色にはなりません。腹部には黒い斑紋がありますが、全体的な印象はギンヤンマのオスほど明瞭な色のコントラストはありません。腹部第3節のくびれはギンヤンマほど目立ちません。
3. 翅の付け根の色を確認する
翅の付け根(翅脈の色)も参考にすることができます。
- ギンヤンマ: 翅の付け根の翅脈は、ほとんど色がついておらず、透明に近いことが多いです。
- クロスジギンヤンマ: 翅の付け根の翅脈が、褐色を帯びていることが多いです。個体差や成熟度にもよりますが、一つの参考になります。
これらのポイントを総合的に確認することで、より確実に同定できるようになります。
ギンヤンマとクロスジギンヤンマの生態
両種は非常によく似た環境に生息し、類似した生態を持ちますが、活動時期などに若干の違いが見られます。
- 生息場所: どちらも平地から丘陵地の、植生が豊かな池、沼、公園の池、休耕田などの開けた水域を好みます。都市部の緑地帯にある比較的きれいな池では普通に見られます。
- 活動時期:
- ギンヤンマ: 主に初夏(6月頃)から秋(10月頃)にかけて多く見られます。
- クロスジギンヤンマ: ギンヤンマよりもやや早く、春先(4月頃)から活動を開始し、夏にかけて多く見られます。秋にも見られますが、ピークはギンヤンマより早い傾向があります。春先に大型のヤンマを見かけたら、クロスジギンヤンマの可能性が高いと言えるでしょう。
- 食性: どちらも肉食性で、飛んでいる他の昆虫(ハエ、アブ、小さなチョウなど)を捕食します。非常に優れたハンターです。
- 繁殖: 水面に腹部を打ち付けて産卵します(打水産卵)。メスは単独で産卵することが多いようです。
ギンヤンマ・クロスジギンヤンマ観察のコツと注意点
大型で飛ぶ姿も力強く、観察していて非常に面白いトンボです。以下に観察のコツと注意点を挙げます。
- 観察場所: 公園の大きめの池や、整備された水辺、あるいは河川敷にある水たまりや湿地などが観察に適しています。晴れて風の弱い日によく活動します。
- 観察方法:
- 高速で水面や周辺をパトロールするように飛び回っていることが多いです。追いかけるのではなく、休憩するために葉にとまったり、特定の場所を周回したりするのを待つ方が観察しやすいかもしれません。
- オスは縄張りを持つことがあり、同じコースを繰り返し飛ぶことがあります。そのような場所を見つけて待機するのも有効です。
- 時折、水辺の植物の葉や茎に静止することがあります。このチャンスを逃さず、胸部の模様などをじっくり観察してみましょう。
- 注意点:
- トンボは動きが素早く、近づくとすぐに飛び立ってしまいます。驚かせないように、ゆっくりと近づくようにしましょう。
- 観察に夢中になりすぎて、足元の安全確認を怠らないように注意してください。特に水辺は滑りやすかったり、思わぬ段差があったりすることがあります。
- 熱中症予防のため、帽子をかぶり、水分を十分に持参しましょう。
- 昆虫採集目的でなければ、捕獲はせず、自然な姿を観察することに留めましょう。
まとめ
都市部で見られる大型のトンボであるギンヤンマとクロスジギンヤンマは、一見するとよく似ていますが、「胸部の側面の黒い筋の有無」「腹部の色や模様」「翅の付け根の色」といった点で区別することができます。特に、クロスジギンヤンマの胸部の太い黒い筋は非常に特徴的です。
活動時期にも若干の違いがあり、クロスジギンヤンマは春先から比較的早く現れる傾向があります。これらの特徴を覚えておくことで、飛んでいる姿だけでは難しくても、静止した際にスムーズに同定を進めることができるでしょう。
身近な水辺でこれらの大型ヤンマの力強い飛翔を観察し、その精緻な美しさや見分けのポイントを確認する時間は、昆虫観察の楽しみを一層深めてくれるはずです。ぜひ、図鑑を片手に、近くの公園や池を訪れてみてください。