都市部で見られるクロオオアリとクロヤマアリ 見分けに迷ったらココを確認
都市部の公園や庭先、道端などで、大型のアリが活発に歩き回る姿をよく目にします。その中でも、特に目につくのがクロオオアリとクロヤマアリです。どちらも黒くて比較的大きいため、一見すると同じ種類のように見えてしまい、見分けに迷う方もいらっしゃるかもしれません。
この記事では、都市部やその近郊で観察できるクロオオアリとクロヤマアリに焦点を当て、それぞれの特徴や似た種類との見分け方、生態、そして観察のコツや注意点について詳しく解説します。図鑑だけでは判断に迷う点も、言葉で丁寧にご説明しますので、ぜひ実際の観察にお役立てください。
クロオオアリとクロヤマアリの基本的な特徴
まずは、それぞれの基本的な特徴を整理しましょう。どちらもアリ科の昆虫で、働きアリの体長は数ミリから大きいもので10ミリを超えるものまでいます。女王アリはさらに大きくなります。
- クロオオアリ (Camponotus japonicus): 体全体が光沢のある黒色をしています。働きアリの大きさにかなりのばらつきがあり、特に大きな働きアリは「兵隊アリ」と呼ばれることもあります(ただし、厳密な兵隊アリ階級ではない)。比較的、がっしりとした体つきに見えます。
- クロヤマアリ (Formica japonica): こちらも体全体が黒色ですが、クロオオアリに比べるとやや光沢が控えめな個体もいます。働きアリの大きさのばらつきはクロオオアリほど顕著ではありません。クロオオアリに比べると、ややスマートな印象を受けることがあります。
見分け方のポイント:迷ったらここを確認
クロオオアリとクロヤマアリを見分ける際の、具体的なポイントをいくつかご紹介します。これらの特徴を観察することで、より正確に種類を判断できるようになります。
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胸部背面の毛(立毛)の有無:
- クロオオアリ: 胸部の背面(背中側)に、まばらですが長い毛(立毛)が生えています。特に前胸部など、背中全体のあちこちに、比較的はっきり確認できる長い毛が立っています。
- クロヤマアリ: 胸部の背面には、長い毛がほとんどありません。非常に短い毛が生えていることはありますが、クロオオアリのように長く目立つ毛は確認できません。 この胸部の立毛の有無は、両種を見分ける上で最も重要なポイントの一つです。
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腹部(後腹柄節より後ろ)の毛の量:
- クロオオアリ: 腹部(お尻の部分)にも、比較的長い毛が多く生えています。体全体が毛深い印象を受けることがあります。
- クロヤマアリ: 腹部には、毛が少ないか、あるいは短く目立ちません。つるっとした印象を受けやすいです。
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頭部の形状:
- クロオオアリ: 特に大きな働きアリ(兵隊アリ)の頭部は、比較的に大きく、ややハート形に近いような、後方が少し凹んだ形状に見えることがあります。働きアリ全体として見ても、頭部は大きめです。
- クロヤマアリ: 頭部はクロオオアリほど大きくなく、後方が顕著に凹むような形状はあまり見られません。全体的に丸みを帯びた印象です。
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サイズ感:
- クロオオアリの働きアリは、小さい個体から大きい個体(兵隊アリ)までサイズの幅が広く、大きな個体はクロヤマアリの働きアリよりも明らかに大きくなります。
- クロヤマアリの働きアリは、個体間のサイズの差が比較的小さく、クロオオアリの大きな働きアリほどのサイズにはなりません。ただし、クロオオアリの小さな働きアリとクロヤマアリの働きアリのサイズは overlapping(重なる)ため、サイズだけで判断するのは難しい場合があります。特に迷った場合は、胸部や腹部の毛で判断するのが確実です。
これらの特徴を、肉眼やルーペで注意深く観察することで、どちらの種類かを判断できるようになります。特に胸部と腹部の毛は、写真だけでは分かりにくい場合があるため、実際にアリを観察する際に確認する重要なポイントです。
クロオオアリとクロヤマアリの生態
同定のヒントとなる基本的な生態についても触れておきましょう。
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巣:
- クロオオアリ: 主に朽ちた木の中や立ち枯れした木、倒木などに巣を作ることが多いです。古い家屋の木材に巣を作ることもあります。土中にも巣を作る場合がありますが、木材を利用することが多いのが特徴です。
- クロヤマアリ: 主に土の中に巣を作ります。地面に小さな盛り土のような巣穴が見られます。公園の地面や庭先、道端などでよく見かけられます。
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食性:
- どちらの種も、アブラムシなどの出す甘露、昆虫の死骸、植物の種子、人間の食べ物の残りカスなど、様々なものを餌とします。特に甘露や死骸はよく運んでいる姿が見られます。
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活動時期・時間帯:
- 春から秋にかけて活動します。日中に活発に活動する姿が見られます。特に暖かい晴れた日には、餌を探して行列を作って歩く様子などを観察できます。
巣の場所も、種類を判断する上での参考になります。朽木から出てくる大きなアリはクロオオアリである可能性が高く、地面の巣穴から出てくるアリはクロヤマアリである可能性が高いと言えます。
観察のコツと注意点
都市部でクロオオアリやクロヤマアリを観察するためのコツと、観察時の注意点です。
- 探す場所: 公園の遊歩道の脇、庭の隅、街路樹の根本、朽ちた木が放置されている場所、古い木造家屋の周辺などでよく見られます。クロオオアリは朽木、クロヤマアリは地面の巣穴を探してみてください。
- 観察時間: 日中、特に午前中から午後にかけての暖かい時間帯に活発に活動しています。
- 観察ツール: ルーペがあると、体の細かい毛などを確認しやすくなります。スマートフォンのマクロ機能なども役立ちます。
- 観察のマナー: アリの巣や活動を妨げないように、静かに観察しましょう。巣穴に棒などを差し込むのは絶対に避けてください。
- 注意点: どちらの種も攻撃性はそれほど高くありませんが、刺激すると咬みついてくることがあります。素手で掴んだり、不用意に触ったりするのは避けましょう。観察する際は、遠くから静かに見守るのが安全です。
まとめ
都市部でよく見られる大型のアリ、クロオオアリとクロヤマアリは、見た目が似ていますが、胸部や腹部の毛、頭部の形状、そして巣の場所といった点に注目することで、確実に見分けることができます。特に胸部背面の長い毛の有無は、両種を区別する決定的なポイントです。
今回ご紹介した見分け方を参考に、ぜひ身近な場所でこれらのアリを観察してみてください。それぞれの特徴をじっくり観察することで、きっとあなたもクロオオアリとクロヤマアリを見分けられるようになるはずです。身近な昆虫の同定に成功した時の喜びは、昆虫観察の大きな醍醐味の一つです。安全に配慮しながら、観察を楽しんでいただければ幸いです。