都市部で見られるナナホシテントウとナミテントウ 見分けに迷ったらココを確認
はじめに
公園や庭先、街路樹など、都市部やその近郊で最もよく見かける昆虫の一つにテントウムシが挙げられます。その中でも、真っ赤な体にと特徴的な黒い紋を持つ姿は、多くの方にとって馴染み深いものでしょう。しかし、身近であるがゆえに「あれ?これはいつものテントウムシと少し違うかな?」と感じる場面もあるかもしれません。
都市部でよく見られるテントウムシの代表格は、ナナホシテントウとナミテントウです。ナナホシテントウはその名の通り七つの黒い星を持つことで知られていますが、ナミテントウは非常に多様な模様を持つため、時にはナナホシテントウと見間違えたり、あるいは見たことのない模様に戸惑ったりすることがあります。
この記事では、都市部で身近に見られるナナホシテントウとナミテントウに焦点を当て、それぞれの基本的な特徴から、特に見分けがつきにくい場合の具体的な比較ポイント、生態、そして観察の際のコツや注意点までを解説いたします。この情報が、皆様の身近な昆虫観察の一助となれば幸いです。
ナナホシテントウの特徴
ナナホシテントウ(Coccinella septempunctata)は、日本全国だけでなくアジア、ヨーロッパ、北アフリカなど広い範囲に分布する、非常にポピュラーなテントウムシです。
体長は一般的に5mmから8mm程度。上翅(じょうし:背中側の硬い翅)は鮮やかな赤色または橙赤色で、表面は滑らかで光沢があります。最大の特徴はその黒い紋の配置です。左右の上翅にそれぞれ3つずつ、そして前胸背板(ぜんきょうはいばん:頭部のすぐ後ろの部分)と上翅の付け根の中央にまたがるように1つ、合計で七つの黒い紋を持っています。この紋の数と配置は基本的に決まっており、個体による大きな変異はほとんどありません。
ナミテントウの特徴
ナミテントウ(Harmonia axyridis)もまた、都市部を含む日本全国に広く生息するテントウムシです。体長はナナホシテントウと同じく5mmから8mm程度で、大きさだけでの見分けは困難な場合が多いです。
ナミテントウの最大の特徴は、その模様の多様性にあります。ナナホシテントウのように模様が固定されているのではなく、黒い紋の数や形、さらには上翅の地の色まで、個体によって驚くほど variation に富んでいます。一般的に見られる主な模様のタイプには以下のようなものがあります。
- 二紋型: 上翅に大きな黒い紋が左右に一つずつあるタイプ。
- 四紋型: 上翅に四つの黒い紋があるタイプ。
- 紅型(べにがた): 上翅が全体的に黒く、左右に赤い大きな斑紋があるタイプ。
- 斑型(まだらがた): 黒い紋が細かく分かれていたり、結合したりして、複雑な斑模様を形成しているタイプ。
これらの代表的なもの以外にも様々な中間的な模様があり、「ナミ(並み)」という名前は、この模様の多様性から「並外れて変異が多い」ことに由来すると言われています。上翅の地の色も、赤、橙色、黄色などが見られます。前胸背板の模様も個体差があり、黒い斑紋がM字型に見えたり、ほぼ黒一色になったりします。
ナナホシテントウとナミテントウの見分け方
両種は大きさや基本的な体形が似ているため、特にナミテントウの模様がナナホシテントウに似ている場合など、見分けに迷うことがあります。具体的な見分けのポイントは以下の通りです。
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上翅の模様:
- ナナホシテントウ: 上翅の地色は赤〜橙赤色で、必ず左右3つずつの合計6つと、上翅の付け根中央に必ず1つ、合計七つの黒い紋を持ちます。紋の形や大きさ、配置は基本的に定型です。
- ナミテントウ: 上翅の地色は赤、橙色、黄色のものがあり、黒い紋の数や形が非常に多様です。紋が全くないものから、ナナホシテントウよりも多くの紋を持つもの、大きな斑紋を持つもの、全身が黒いものまで様々です。もし「七つ以外の数の紋がある」「紋の配置がナナホシテントウと明らかに違う」「地色が黄色」といった場合は、ナミテントウである可能性が高いです。特に、七つの紋に見えても、よく見ると形が歪だったり、小さな紋が多数集まっていたりする場合は、ナミテントウの可能性を疑ってみてください。
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前胸背板の模様:
- ナナホシテントウ: 黒地に左右に白い斑紋が一つずつあるのが典型的です。
- ナミテントウ: 黒地に白い斑紋が様々に入り、M字型に見えたり、全体が黒っぽくなったりと変異が大きいです。ただし、この部分は変異が大きいので、上翅の模様ほど決定的な判断材料にはならない場合もあります。
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形態の微妙な違い(参考):
- 慣れてくると、体全体の丸みや、前胸背板と上翅の境目のラインなどに微妙な違いを感じる方もいらっしゃいますが、これは経験によるところが大きく、写真や図鑑だけで判断するのは難しいかもしれません。まずは上翅の模様の違いを重点的に確認するのが確実です。
結論として、最も確実な見分け方は、上翅の模様が「定型的な七つの黒い紋」であるか、「模様が多様で七つ以外の数や配置、あるいは複雑な斑紋や地色の違いが見られる」かで判断することです。
生態について
ナナホシテントウとナミテントウは、どちらも肉食性のテントウムシであり、特にアブラムシを主食としています。アブラムシは植物にとって害虫となるため、これらのテントウムシは「益虫」として知られています。
- 活動時期: 主に春から秋にかけて活動が見られます。暖かい時期であれば、都市部の公園や庭、農耕地など、アブラムシがいる場所でよく観察できます。
- 生活場所: バラやアブラナ科の植物、マメ科植物など、アブラムシが発生しやすい様々な草木の上で見られます。幼虫もアブラムシを捕食しながら成長します。
- ライフサイクル: 卵から孵化した幼虫は、脱皮を繰り返して成長し、やがて蛹になります。蛹の期間を経て成虫となり、繁殖します。成虫は冬になると落ち葉の下や建物の隙間などで集まって越冬することが知られています。
観察のコツと注意点
ナナホシテントウやナミテントウを観察する際のコツと注意点を挙げます。
- 探す場所: アブラムシがよく付いている植物(バラ、菜の花、マメ類など)を探してみてください。葉や茎、新芽などを注意深く観察すると見つけやすいです。葉の裏に隠れていることもあります。
- 観察の仕方: テントウムシは動きが比較的ゆっくりなので、落ち着いて観察できます。驚かせないように、ゆっくりと近づくのがポイントです。
- 注意点:
- 無理に捕まえたり、傷つけたりしないようにしましょう。
- 観察場所の植物を傷つけたり、踏み荒らしたりしないように配慮しましょう。
- 観察後は、触った可能性のある場所や手などを洗うと良いでしょう。
- 外来種のナミテントウは在来種のテントウムシと競合するなどの問題も指摘されていますが、一般の観察においては、その多様な姿を理解し、生態系の一員として観察する姿勢が大切です。
まとめ
都市部で身近に見られるナナホシテントウとナミテントウは、一見似ていますが、最もわかりやすい見分けのポイントは上翅の模様の規則性(ナナホシテントウ)と多様性(ナミテントウ)にあります。ナナホシテントウは定型の七つの紋、ナミテントウは紋の数や形、地色に大きな変異が見られます。
どちらの種もアブラムシを食べる益虫として、私たちの身近な環境で重要な役割を果たしています。次にテントウムシを見かけた際には、その模様をじっくりと観察し、「これはナナホシかな?それともナミテントウのこの模様のタイプかな?」と考えてみるのも楽しいでしょう。身近な昆虫の識別は、観察の喜びを一層深めてくれるはずです。