都市部で見られるオオニジュウヤホシテントウとテントウムシ 見分けに迷ったらココを確認
都市部やその近郊で昆虫観察を楽しんでいると、様々な種類の小さな甲虫に出会う機会があります。中でも、丸っこい体と斑点を持つ甲虫は、しばしば「テントウムシ」として認識されますが、よく似ていても全く異なる性質を持つ種類も存在します。特に、ナス科の植物などでよく見られるオオニジュウヤホシテントウは、見た目がテントウムシに似ているため、混同されることが少なくありません。
しかし、オオニジュウヤホシテントウは植物の葉を食べる害虫であり、アブラムシなどを捕食する益虫である一般的なテントウムシとは、私たち人間との関わりにおいて大きく異なります。昆虫観察の楽しみの一つに、見た目の特徴からその正体を明らかにする「同定」がありますが、この2種類の昆虫を見分けることは、観察の精度を高めるだけでなく、彼らの生態への理解を深める上でも非常に役立ちます。
この記事では、都市部で見られる機会の多いオオニジュウヤホシテントウと、身近なテントウムシ(特にナナホシテントウやナミテントウなど)を見分けるための具体的なポイントを、写真だけでは分かりにくい細部の特徴を交えて解説いたします。
オオニジュウヤホシテントウの特徴
オオニジュウヤホシテントウ(学名:Epilachna vigintioctopunctata)は、ハムシ科に属する甲虫です。テントウムシ科ではありません。その名の通り、体に28個の黒い斑点があることが特徴ですが、個体によっては斑点の数が少なかったり、融合していたりすることもあります。
体の大きさは6mmから7mm程度で、丸みを帯びた半球形をしています。体色は赤褐色から茶褐色で、光沢はあまりありません。
オオニジュウヤホシテントウをテントウムシと見分ける上で、最も注目すべき点は「体の表面」です。オオニジュウヤホシテントウの体表面、特に背中側をよく見ると、非常に細かい毛(微毛)が密に生えています。この微毛のため、体の表面に光沢がなく、どこかザラザラした質感に見えます。この「毛が生えていること」が、多くのテントウムシとの決定的な違いとなります。
また、脚や触角の色は体色よりもやや薄い褐色をしています。
身近なテントウムシの特徴(比較対象として)
ここで比較対象として、都市部でもよく見られるナナホシテントウ(学名:Coccinella septempunctata)やナミテントウ(学名:Harmonia axyridis)といったテントウムシ科の昆虫の特徴を見てみましょう。
これらのテントウムシは、大きさや体の形はオオニジュウヤホシテントウと似ていますが、決定的に異なる点があります。それは「体の表面」です。ナナホシテントウやナミテントウを含む多くのテントウムシは、体の表面に毛がほとんど生えておらず、ツルツルとして強い光沢があります。光を反射してピカピカと光る様子は、オオニジュウヤホシテントウのマットな質感とは対照的です。
斑点の数は、ナナホシテントウは名前の通り7個、ナミテントウは様々な模様の変異があり、0個から19個までと幅広いパターンが見られます。斑点の数だけではオオニジュウヤホシテントウと確実に区別することは難しい場合があります。しかし、斑点の形や並び方にも種ごとの特徴があります。
体色については、ナナホシテントウは鮮やかな赤色に黒い斑点、ナミテントウは赤色や黒色に様々な数の斑点を持つなど、種によって多様です。オオニジュウヤホシテントウの茶褐色とは異なることが多いですが、ナミテントウの変異型には茶色っぽいものもいるため、体色だけでの判断も注意が必要です。
見分け方の決定的なポイント
オオニジュウヤホシテントウとテントウムシを見分ける上で、最も重要で確実なポイントは以下の通りです。
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体の表面の質感:
- オオニジュウヤホシテントウ: 体の表面に細かい毛(微毛)が密生しており、光沢がなくマットな質感に見えます。
- テントウムシ(多くの種): 体の表面に毛がほとんどなく、ツルツルとして強い光沢があります。 この違いは、ルーペなどを使うとより確認しやすくなります。
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食性:
- オオニジュウヤホシテントウ: 植物の葉、特にナス科(ナス、トマト、ジャガイモ、ホオズキなど)の葉を食べて穴を開けます。
- テントウムシ(多くの益虫種): アブラムシやカイガラムシなどの、植物を吸汁する小さな昆虫を捕食します。 どのような植物についているか、あるいは何をしているかを観察することも、見分ける手助けになります。葉を食べている丸っこい甲虫を見つけたら、オオニジュウヤホシテントウである可能性が高いと言えます。
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斑点以外の模様:
- オオニジュウヤホシテントウ: 体色は赤褐色~茶色で、斑点以外の目立つ模様は少ないです。
- テントウムシ(多くの種): 頭部や前胸(首のように見える部分)に、種ごとに特徴的な黒と白(または黄色)の模様を持つことが多いです(例:ナナホシテントウの頭部の白い斑紋)。この前胸部の模様も、見分ける上での手がかりになります。
これらのポイントを総合的に判断することで、より正確に同定することができます。特に、「体の表面に毛があるか、光沢があるか」という点は、ルーペで拡大して確認することをお勧めする決定的な違いです。
オオニジュウヤホシテントウの生態
オオニジュウヤホシテントウは、成虫で越冬します。春になると活動を開始し、ナス科の植物などに産卵します。卵から孵化した幼虫も、成虫と同様に植物の葉を食べます。幼虫は黒っぽい体に枝分かれした棘のような突起を持つ独特な姿をしています。蛹を経て成虫になり、繁殖を繰り返します。夏から秋にかけて個体数が増加する傾向があります。彼らは主にナス、トマト、ジャガイモ、ピーマン、ホオズキなどの葉を食害するため、これらの植物を栽培している場所ではしばしば見られます。
観察のコツと注意点
- 観察場所: ナス、トマト、ジャガイモなどのナス科の植物が植えられている場所を探してみましょう。公園の花壇や家庭菜園などで見つかることがあります。葉の表だけでなく、裏側も丁寧に観察すると、隠れている成虫や幼虫、卵が見つかることがあります。
- 観察時期: 成虫は春から秋にかけて活動が見られますが、特に葉が茂る夏場によく見られます。
- 観察のツール: 小さな昆虫の細部を観察するためには、ポケットルーペがあると非常に役立ちます。体の表面の微毛や、斑点の形、前胸部の模様などを拡大して観察することで、より確実な同定につながります。
- 注意点: オオニジュウヤホシテントウは植物にとっては害虫ですが、むやみに捕獲したり、触ったりする必要はありません。彼らを観察する際は、植物を傷つけないように注意し、静かにそっと観察するように心がけましょう。生態系の一員として、彼らの営みを観察することは、自然への理解を深める貴重な機会となります。
まとめ
都市部で出会う丸い甲虫、オオニジュウヤホシテントウとテントウムシは見た目が似ていますが、体の表面の質感(毛があるか光沢があるか)、食性、そして前胸部の模様といった点に注目することで、確実に見分けることができます。特に、体に細かい毛が生えていて光沢がないのがオオニジュウヤホシテントウの大きな特徴です。
これらの見分け方をマスターすれば、身近な場所での昆虫観察がさらに面白くなるはずです。どちらの種類の昆虫に出会ったかによって、彼らがどのような役割を果たしているのか、どのような植物と関わっているのかを推測することもできるようになります。ルーペ片手に、ぜひこれらの小さな甲虫たちの世界をじっくりと観察してみてください。