都市部で見られるセイヨウミツバチとニホンミツバチ 見分けに迷ったらココを確認
はじめに
都市部やその近郊で、花から花へと飛び回るミツバチの姿をよく目にされることと思います。私たちの身近にいるミツバチには、主に「セイヨウミツバチ」と「ニホンミツバチ」の2種類がいます。どちらも同じミツバチですが、よく見ると見た目や生態に違いがあり、これらの違いを知ることは観察の楽しみを深める一助となります。
図鑑などで写真を見比べても、「何となく違うかな?」と感じることはあっても、実際に野外で見かけた際にどちらであるか正確に判断するのは難しいと感じることもあるかもしれません。この記事では、セイヨウミツバチとニホンミツバチをフィールドで見分けるための具体的なポイントについて、形態や生態的な特徴に焦点を当てて解説します。
セイヨウミツバチとニホンミツバチの特徴と見分け方
セイヨウミツバチとニホンミツバチは、外見が非常によく似ていますが、いくつかの点で区別が可能です。これらの特徴を知っていれば、観察時にどちらのミツバチかを見分ける手助けとなるでしょう。
1. 形態による見分け方
- 体の大きさ:
- 一般的に、セイヨウミツバチの方がニホンミツバチよりもわずかに体が大きい傾向があります。しかし、個体差もあるため、これだけで断定することは難しい場合があります。
- 体色と模様:
- セイヨウミツバチは、腹部のしま模様が比較的はっきりとしており、全体的に黄色みが強い傾向が見られます。特に腹部の根元に近い部分は黄色い帯が目立つことが多いです。
- 一方、ニホンミツバチは、腹部のしま模様がやや不明瞭で、全体的に黒っぽく、灰色がかった印象を受けることが多いです。
- ただし、これらはあくまで一般的な傾向であり、個体や地域によって変異があるため、他の特徴と合わせて判断することが重要です。
- 毛の長さと密度:
- セイヨウミツバチの方が、体に生えている毛がやや長く、全体的にふっくらとした印象を受けることがあります。
2. 行動による見分け方
外見以上に、行動の違いが見分けの重要な手がかりとなる場合があります。
- 花の訪れ方:
- セイヨウミツバチは、同じ種類の花に集中的に訪れる「定花性(ていかせい)」が強いとされています。これは、効率よく蜜や花粉を集めるために特定の種類の花に特化する性質です。
- ニホンミツバチは、セイヨウミツバチほど強い定花性は持たず、様々な種類の花を比較的自由に行き来することがあります。
- 巣の場所:
- セイヨウミツバチは、人間の管理下にある巣箱(養蜂箱)で飼育されていることがほとんどです。野生のセイヨウミツバチが都市部で見られることは稀です。
- ニホンミツバチは、樹洞、岩の隙間、家屋の床下や屋根裏など、閉鎖された空間に巣を作ることが多いです。都市部で野生のミツバチの巣を見かけた場合、ニホンミツバチである可能性が高いでしょう。
- オオスズメバチへの防御:
- ニホンミツバチは、天敵であるオオスズメバチが巣に近づくと、集団でオオスズメバチを取り囲み、体の震えによって熱を発生させて蒸し殺すという独特の防御行動をとります(熱殺蜂球)。
- セイヨウミツバチは、この熱殺防御をうまく行うことができません。これは、両種の進化の歴史の違いによるものです。このような劇的な行動を目にする機会は少ないかもしれませんが、生態的な違いとして知っておくと興味深い点です。
- 分封(ぶんぽう):
- どちらのミツバチも、新しい女王バチが誕生すると、古い女王バチと一部の働きバチが新しい巣を作るために元の巣から分かれていく「分封」という行動をとります。この際、一時的に木の枝などに大きな集団で塊になっていることがあります。セイヨウミツバチは養蜂家によって管理されているため、自然な分封の集団を見る機会は少ないかもしれませんが、逃去群として見られることもあります。ニホンミツバチの自然な分封群は比較的観察しやすいかもしれません。
基本的な生態
ミツバチは社会性の昆虫で、女王バチ、働きバチ、オスバチで構成されるコロニー(群れ)を作って生活しています。
- 食性: 主に花の蜜をエネルギー源とし、花粉をタンパク源としています。これらの資源を求めて様々な花を訪れます。
- 活動時期: 基本的に春から秋にかけて活発に活動します。冬の間は、巣の中で体を寄せ合って暖をとり越冬します。
- ライフサイクル: 女王バチが卵を産み、幼虫は働きバチによって育てられます。働きバチは羽化後、巣の中での仕事(巣の清掃、幼虫の世話、巣作りなど)を経て、やがて外に出て採餌活動を行います。働きバチの寿命は活動期には1ヶ月程度ですが、越冬する働きバチは数ヶ月生きることもあります。
観察のコツと注意点
ミツバチは私たちの身近な観察対象ですが、刺される危険もあるため、観察には注意が必要です。
- 観察場所: 公園や庭園の植え込み、街路樹の花、河川敷の草花など、様々な種類の花が咲いている場所で見つけやすいです。特に、春から秋にかけては多くの花でミツバチを見ることができます。
- 観察のコツ:
- ミツバチは花の蜜や花粉を集めるのに夢中になっていることが多いですが、急に近づいたり、手で払ったりすると驚いて刺すことがあります。ゆっくりと静かに近づき、観察するようにしましょう。
- 働きバチが足に花粉団子をつけている様子や、蜜を吸っている様子などを観察してみましょう。
- 可能であれば、養蜂場の近くや、自然の多い場所で巣を探してみるのも良いでしょう。ただし、巣には近づきすぎないように注意が必要です。
- 安全に関する注意:
- ミツバチは基本的に攻撃性の低い昆虫ですが、巣を守るためや、自身に危険が迫ったと感じた際には刺すことがあります。
- 巣の近くにはむやみに近づかないでください。また、ミツバチが警戒している様子(まとわりついてくる、威嚇するように飛ぶなど)を見せたら、静かにその場を離れましょう。
- 黒っぽい服や香水はミツバチを刺激することがあると言われています。明るい色の服を着用し、香水の使用は控えるのが無難です。
- 万が一刺されてしまった場合は、針が残っていれば取り除き、流水でよく洗い、可能であれば抗ヒスタミン剤入りの軟膏などを塗布してください。腫れや痛みがひどい場合、あるいはアレルギー症状が出た場合は、速やかに医療機関を受診してください。
まとめ
都市部で身近に見られるセイヨウミツバチとニホンミツバチは、見た目が似ていますが、体色や毛の長さ、そして特に巣の場所や行動に違いが見られます。養蜂箱にいればセイヨウミツバチ、閉鎖空間に自然巣を作っていればニホンミツバチである可能性が高い、という点を覚えておくと、見分けの大きなヒントになるでしょう。
ミツバチは花と花粉を運び、植物の受粉に貢献する私たちの生活にとって非常に重要な昆虫です。安全に配慮しながら、これらの小さな働き者たちの姿を観察し、その違いや生態に触れることは、身近な自然への理解を深める豊かな経験となるはずです。