都市部で見られるシオカラトンボとオオシオカラトンボ 見分けに迷ったらココを確認
都市部やその近郊にある公園の池や水路、田んぼなど、水辺の環境で昆虫観察をしていると、必ずと言っていいほど目にするのがトンボの仲間です。中でも、成熟したオスが青白い体色をしているシオカラトンボとオオシオカラトンボは、特に目に留まりやすい存在と言えるでしょう。
これらのトンボは姿かたちがよく似ているため、「これはシオカラトンボかな、それともオオシオカラトンボかな?」と見分けに迷うことも少なくないかと思います。図鑑を見ても、写真だけでは判断が難しいと感じることもあるかもしれません。
この記事では、シオカラトンボとオオシオカラトンボを正確に見分けるための具体的なポイントに焦点を当てて解説します。見た目の特徴だけでなく、生態や観察のコツもご紹介しますので、ぜひ今後の昆虫観察にお役立てください。
シオカラトンボとオオシオカラトンボの基本的な特徴
まずは、それぞれのトンボがどのような姿をしているのか、基本的な特徴を確認しましょう。どちらもトンボ科に属し、日本の多くの地域で見られる身近な種類です。
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シオカラトンボ ( Orthetrum albistylum speciosum ) 成熟したオスは、全身が淡い青白い粉(蝋物質)で覆われます。この粉が塩を吹いたように見えることから「塩辛」トンボの名がついたと言われています。メスや羽化直後の若いオスは、黄色っぽい体色に黒い筋が入る姿をしています。比較的細身で、翅は透明です。
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オオシオカラトンボ ( Orthetrum triangulare melania ) オオシオカラトンボも、成熟したオスは全身が青白い粉で覆われます。名前の通り、シオカラトンボよりも一回り大きくがっしりとした体格をしています。メスや若いオスは、黒っぽい体色に鮮やかな黄色の斑紋が入る姿です。翅の付け根あたりがわずかに黄褐色を帯びることがあります。
ここが重要!見分け方のポイント
写真だけでは分かりにくい、シオカラトンボとオオシオカラトンボを見分けるための具体的なポイントを解説します。特に、似ているメスや若いオス、そして特徴的な成熟したオスについて、細部を比較してみましょう。
1. 成熟したオスの体色と粉の様子
成熟したオスは、どちらも青白い粉を吹いていますが、その色合いと粉の乗り方に違いがあります。
- シオカラトンボ: 淡い水色から青白い粉で、腹部も全体的に均一な青白さです。粉の乗り方も比較的サラッとした印象です。額(顔の正面)は黒いことが多いです。
- オオシオカラトンボ: シオカラトンボよりも濃い、灰色がかったような青白い粉で覆われます。特に腹部の背面にはっきりと粉が乗り、より白っぽく見えます。体格がよりがっしりしていることも相まって、重量感があります。額(顔の正面)にも青白い粉が乗ることが多く、白っぽく見えます。
2. メスと未熟なオスの体色と腹部の模様
メスや羽化直後のオス(未熟なオス)は、成熟したオスとは全く異なる色をしています。この段階での見分けが、特に図鑑の写真だけでは難しく感じるかもしれません。
- シオカラトンボ(メス・未熟オス): 全体的に明るい黄褐色をしています。腹部の各節の側面には、黒い小さな斑紋が離れて並んでいます。
- オオシオカラトンボ(メス・未熟オス): 全体的に黒っぽい地色に、鮮やかな黄色の大きな斑紋が入ります。特に腹部の側面の黄色い斑紋は大きく、黒い地色とのコントラストがはっきりしています。腹部の側面の黒い部分は、シオカラトンボの斑紋よりも繋がりやすく、線状に見える傾向があります。
3. 体格と大きさ
名前にも「オオ」と付いているように、大きさが重要な手がかりになります。
- シオカラトンボ: 体長は約50mm程度です。
- オオシオカラトンボ: 体長は約60mm程度と、シオカラトンボよりも一回り大きく、体つきも太くがっしりしています。
並んで止まっている場面に遭遇することは稀ですが、単独で観察する場合でも、大きさと体格の印象で判断できることがあります。
4. 翅の付け根の色
翅(はね)の付け根の部分の色も、見分けのポイントになります。
- シオカラトンボ: 翅の付け根はオス、メスともにほぼ透明です。
- オオシオカラトンボ: 翅の付け根、特に後翅の付け根の部分が、オス、メスともにわずかに黄褐色を帯びることが多いです。光の当たり方によっては分かりにくいこともありますが、複数の個体を観察すると違いが見えてくることがあります。
これらのポイントを総合的に観察することで、より正確に同定できるようになります。
シオカラトンボ・オオシオカラトンボの生態
同定の手がかりとして、そのトンボがどのような場所で、いつ頃活動しているかといった生態を知っておくことも有効です。
- 生息場所: どちらの種類も、平地から山地の水辺に広く生息します。都市部では、整備された公園の池、ビオトープ、水路、比較的きれいな小川、田んぼなどでよく見られます。水辺から少し離れた草地やコンクリートの上などで休んでいる姿も観察できます。
- 活動時期: どちらもだいたい5月から10月頃にかけて活動しますが、盛んに見られるのは夏の時期です。羽化は春から夏にかけて行われます。
- 食性: 成虫は飛翔する小型の昆虫(カ、ハエ、アブ、チョウなど)を捕まえて食べます。水中のヤゴ(幼虫)は、アカムシやボウフラなどを捕食します。
- ライフサイクル: 卵から孵ったヤゴは水中で1~数年過ごし、十分に成長すると水辺の植物の茎などを伝って水上に出て羽化し、成虫となります。
観察のコツと注意点
実際にシオカラトンボやオオシオカラトンボを観察する際に役立つコツと、注意すべき点をご紹介します。
- 探す場所: 水辺、特に日の当たりの良い開けた場所を優先的に探してみましょう。水草の茎の先端や、水辺近くのコンクリート、石の上など、トンボが休息したり縄張りを張ったりするために止まっている場所を注意深く見てみてください。
- 近づき方: トンボは視覚が発達しており、人の動きに敏感です。観察したい個体を見つけたら、急な動きを避け、ゆっくりと慎重に距離を詰めましょう。しゃがんだり、草陰に隠れたりすると、より接近できることがあります。
- 双眼鏡の活用: 小さな特徴や離れた場所に止まっている個体を観察するには、双眼鏡が非常に役立ちます。特に翅の付け根の色や腹部の模様といった細部を確認するのに便利です。
- 観察の時間帯: 晴れた日の午前中から午後の早い時間帯が、トンボが活発に活動しているため観察しやすい時間帯です。
- 環境への配慮: 観察する際は、トンボや他の生き物の生息環境を壊さないように注意しましょう。植物を踏み荒らしたり、ゴミを捨てたりすることは絶対に避けてください。
- 安全確保: 水辺での観察は、足元に十分注意が必要です。滑りやすい場所や不安定な場所には立ち入らないようにしましょう。熱中症対策として、水分補給や休憩も忘れずに行ってください。
まとめ
シオカラトンボとオオシオカラトンボは、都市部でも身近に観察できる美しいトンボです。成熟したオスの体色、メスや未熟なオスの体色と腹部の模様、体格、そして翅の付け根の色といったポイントに注目することで、図鑑だけでは迷いがちだった見分けも、きっとできるようになるはずです。
これらの見分け方を参考に、ぜひ実際にフィールドで観察してみてください。見慣れたトンボでも、注意深く観察することで新たな発見があるかもしれません。身近な自然の中で、トンボの多様な姿や生態に触れる時間は、きっと心を豊かにしてくれるでしょう。