都市部で見られる身近な茶色いカメムシ3種 見分けに迷ったらココを確認
都市部やその近郊で昆虫観察を楽しんでいると、様々な種類のカメムシに出会う機会があるかと思います。緑色のカメムシについては以前の記事でご紹介しましたが、茶色いカメムシもまた身近でよく見られる存在です。
一口に「茶色いカメムシ」と言っても、その種類は多岐にわたります。中にはよく似た姿をしている種もおり、図鑑だけでは判断に迷うこともあるかもしれません。この記事では、都市部で特に普通に見られる茶色いカメムシの中から、見分けのポイントを押さえておきたい3種、「クサギカメムシ」「ホシハラビロヘリカメムシ」「チャバネアオカメムシの茶色型」に焦点を当てて、それぞれの特徴と同定方法、そして観察のコツをご紹介いたします。
クサギカメムシの特徴と見分け方
クサギカメムシは、都市部でも非常に普通に見られる大型のカメムシです。体長は13~17ミリメートルほどで、全体的に褐色から暗褐色をしており、独特のずんぐりとした体形をしています。
形態的な特徴
- 体色と質感: 茶色を基調としていますが、黒っぽい斑点や不規則な模様があり、ややまだらな印象です。体の表面はつや消しのような質感で、細かい点刻(てんこく)が見られます。
- 頭部と胸部: 頭部は小さく、前胸背板(ぜんきょうはいばん:首の後ろの盾状の部分)が左右に張り出し、角のように突き出ています。この張り出しは、他の多くのカメムシと比べて顕著です。
- 小楯板(しょうじゅんばん): 小楯板(胸部の後方にある三角形の板)には、黄白色の斑紋がいくつか入ることが多いですが、変異もあります。
- 腹部: 腹部の側面は、節ごとに黒と黄白色の帯状の模様が交互に入り、縁がギザギザに見えます。
似ている虫との見分け方
クサギカメムシと似ている茶色いカメムシはいくつかいますが、特にホシハラビロヘリカメムシとの見分けが初心者には難しいかもしれません。
- ホシハラビロヘリカメムシとの比較: クサギカメムシは体全体が幅広く、より扁平でずんぐりしています。一方、ホシハラビロヘリカメムシはクサギカメムシよりも細長く、厚みがあります。また、前胸背板の左右の張り出しはクサギカメムシほど尖らず、丸みを帯びています。最も明確な違いは、後述するホシハラビロヘリカメムシの腹部の模様です。
- 他の茶色いカメムシとの比較: クサギカメムシほど前胸背板が張り出している種は多くありません。この特徴と、ずんぐりした体形、腹部側面の模様を総合的に見ると、他の一般的な茶色いカメムシ(例:オオクサギカメムシ、アオクサギカメムシの茶色型など)との区別がつきやすくなります。オオクサギカメムシはクサギカメムシよりもさらに大きく、前胸背板の張り出しもより顕著です。
生態
クズやフジなどのマメ科植物、またその名の通りクサギなど、非常に多くの植物の葉や茎、果実から汁を吸います。都市部では公園や庭木、街路樹など、様々な場所で見られます。成虫で越冬し、暖かい時期に活発に活動します。刺激すると、独特の強い臭いを放ちます。
ホシハラビロヘリカメムシの特徴と見分け方
ホシハラビロヘリカメムシは、ヘリカメムシ科に属する茶色いカメムシです。体長は14~18ミリメートルほどで、クサギカメムシと同じくらいのサイズですが、体形が異なります。
形態的な特徴
- 体色と質感: 全体的に褐色から赤褐色をしており、クサギカメムシのようなまだら模様は目立ちません。体表面はやや光沢があり、滑らかな印象です。
- 体形: クサギカメムシと比べて、細長く、やや厚みのある体形をしています。
- 腹部: 最大の同定ポイントは、腹部の裏側に大きな星形(☆)あるいはスペード形(♠)の黒い斑紋があることです。この模様は、仰向けになっている個体や、体を持ち上げた際に腹部が見えると確認できます。
- 後脚: 後脚の脛節(けいせつ:ふとももと跗節の間)が幅広く平たくなっているのも特徴の一つです。
似ている虫との見分け方
- クサギカメムシとの比較: 先述の通り、体形の違い(ホシハラビロヘリカメムシは細長い)と、決定的な腹部の星形模様の有無で容易に見分けられます。腹部の模様は、生きた状態では確認しにくいこともありますが、死骸や弱った個体では確認できる場合があります。生きている個体を観察する際は、体形と後脚の形状が役立ちます。
- 他のヘリカメムシ類との比較: 他のヘリカメムシ類にも似たような体形の種がいますが、腹部の星形模様を持つのは本種の特徴です。
生態
マメ科植物(ダイズ、アズキ、クズなど)やタデ科植物(イヌタデなど)を食草とします。都市部ではこれらの植物が生えている場所で見られます。クサギカメムシと同様に成虫で越冬します。刺激すると臭いを出しますが、クサギカメムシほど強くはないと言われます。
チャバネアオカメムシ(茶色型)の特徴と見分け方
チャバネアオカメムシは、名前の通り通常は鮮やかな緑色をしたカメムシです。しかし、秋から冬にかけて気温が下がると体色が褐色に変化する個体がいます。この茶色くなった個体が、他の茶色いカメムシと間違われることがあります。体長は13~16ミリメートルほどで、クサギカメムシやホシハラビロヘリカメムシと同程度のサイズです。
形態的な特徴
- 体色と質感: 通常は緑色ですが、寒くなると全体が均一な褐色や赤褐色になります。この茶色は、クサギカメムシのようなまだら模様はなく、比較的単調な色合いです。表面はやや光沢があります。
- 体形: 典型的なカメムシらしい盾形の体形をしており、クサギカメムシのように前胸背板が極端に張り出すことも、ホシハラビロヘリカメムシのように細長くなることもありません。
- 小楯板: 小楯板の先端が丸みを帯びているのが特徴です。
- 腹部: 腹部側面の縁は、クサギカメムシのような顕著な黒と黄白色の帯模様はありません。
似ている虫との見分け方
茶色くなったチャバネアオカメムシは、他の単色の茶色いカメムシと見間違える可能性があります。
- クサギカメムシ、ホシハラビロヘリカメムシとの比較: 体形が最も重要な見分けポイントです。クサギカメムシのような前胸背板の張り出しやずんぐりした体形、ホシハラビロヘリカメムシのような細長い体形や腹部裏の星模様はありません。典型的なカメムシの盾形をしていること、小楯板の先端が丸いことなどが区別点となります。
- 識別が難しい場合: 春先などに、緑色に戻りかけのまだらな個体がいることもあります。また、茶色型は見た目が他のいくつかの茶色いカメムシ(例えば、クサギカメムシに似た小型種など)と紛らわしいこともあります。しかし、都市部で普通に見られる茶色いカメムシの多くは、今回紹介した3種か、あるいは緑色のカメムシの茶色型であることが多いです。迷った際は、前胸背板の形状、小楯板の先端の形、腹部の模様などを注意深く観察してみましょう。
生態
非常に様々な植物、特に果樹や野菜、広葉樹などを食草とします。都市部では公園の樹木、庭先の植物、街路樹など、様々な場所で見られます。成虫で越冬するため、秋から春先にかけて茶色くなった個体を見かける機会が多くなります。越冬場所を探して家屋に侵入することもあります。
3種の見分けポイントまとめ
| 特徴 | クサギカメムシ | ホシハラビロヘリカメムシ | チャバネアオカメムシ(茶色型) | | :------------------- | :-------------------------------- | :-------------------------------- | :-------------------------------------- | | 体形 | 幅広くずんぐりとした扁平な体形 | 細長く、やや厚みのある体形 | 典型的な盾形 | | 体色・模様 | 褐色~暗褐色、まだら模様あり、つや消し | 褐色~赤褐色、単調、やや光沢あり | 均一な褐色~赤褐色、単調、やや光沢あり | | 前胸背板の張り出し | 左右に顕著に張り出し、角状 | 左右に張り出すが、クサギほどではなく丸い | あまり張り出さない | | 小楯板の先端 | 丸いが、特徴的な形ではない | 丸いが、特徴的な形ではない | 丸みを帯びる | | 腹部(側面) | 黒と黄白色の帯状模様が交互に入る | 顕著な帯模様なし | 顕著な帯模様なし | | 腹部(裏面) | 特徴的な模様なし | 大きな星形(☆)の黒い斑紋あり | 特徴的な模様なし | | 後脚 | 普通の形状 | 脛節が幅広く平たい | 普通の形状 |
観察のコツと注意点
- 探す場所: 今回ご紹介した3種は、公園の植え込み、街路樹、庭木、畑や河川敷の植物など、比較的どこにでも見られます。特に、それぞれの食草となっている植物(クズ、マメ科植物、広葉樹など)を目安に探すと見つけやすいでしょう。建物の壁や窓にもよく止まっています。
- 活動時期: 成虫は年間を通して見られますが、特に春から秋にかけて活発に活動します。茶色型のチャバネアオカメムシや、越冬中のクサギカメムシ、ホシハラビロヘリカメムシは秋から春先にかけて見られることが多いです。
- 観察時の注意: カメムシは刺激すると臭いを出します。捕まえようとしたり、強く触ったりしないようにしましょう。観察する際は、遠くからそっと近づき、驚かせないように注意が必要です。写真撮影をする場合は、ズーム機能などを活用すると良いでしょう。
- 越冬個体: 冬場には、建物の隙間や木の洞、落ち葉の下などで集まって越冬していることがあります。見つけても、無理に触ったり移動させたりせず、そっと見守るようにしましょう。
まとめ
都市部で身近な茶色いカメムシの中から、クサギカメムシ、ホシハラビロヘリカメムシ、チャバネアオカメムシの茶色型という3種の見分け方を中心にご紹介しました。それぞれに体形や模様、体の質感などに特徴があり、注意深く観察すれば区別することができます。
これらのカメムシは、皆さんの身近な場所で普通に見られる昆虫です。この記事を参考に、公園や庭先でカメムシを見かけた際に、どの種類だろうと考えてみるのも楽しいかもしれません。カメムシの世界は奥深く、他にも様々な種類の茶色いカメムシがいます。今回の3種が見分けられるようになったら、他のカメムシにも目を向けてみてはいかがでしょうか。昆虫観察を通して、都市に暮らす小さな生き物たちの多様性を感じていただければ幸いです。