都市部で見られる身近なイトトンボ3種(アジアイトトンボ、オオイトトンボ、モノサシトンボ)見分けに迷ったらココを確認
都市部の公園やその周辺には、様々な生き物が生息しています。水辺があれば、トンボの仲間を観察することもできます。特に繊細な姿をしたイトトンボは、色や模様が美しく、私たちの目を楽しませてくれます。しかし、イトトンボの仲間はよく似た種類が多く、見分けるのが難しいと感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ここでは、都市部や近郊で比較的よく見られるイトトンボの中から、特に見間違いやすい「アジアイトトンボ」「オオイトトンボ」「モノサシトンボ」の3種に焦点を当て、それぞれの特徴と確実な見分け方について詳しく解説いたします。図鑑の写真だけでは判断に迷うような、細かなポイントについても丁寧にご説明します。
アジアイトトンボ、オオイトトンボ、モノサシトンボとは
これらのイトトンボは、どれも体長が3cmから4cm程度の比較的小型のトンボです。細長い体を持ち、翅を閉じて止まるのが特徴です。いずれも池や沼、湿地、流れの緩やかな小川など、比較的水の汚れていない場所で見られます。
- アジアイトトンボ:全体的に青色の体を持つことが多く、普通に見られるイトトンボの代表的な存在です。
- オオイトトンボ:アジアイトトンボによく似ていますが、より大型で、体色も青色や緑色、褐色など個体変異が見られます。
- モノサシトンボ:黒っぽい体に黄緑色や水色の斑紋が尺取り虫の目盛りのように並ぶのが特徴的で、和名の由来となっています。
それでは、それぞれの種類を見分けるための具体的なポイントを見ていきましょう。
種類を見分けるための具体的なポイント
イトトンボの同定には、主に体色、胸部の模様、腹部の模様、翅の縁紋(えんもん)、そしてオスの場合は腹部の先端の形状などが重要な手がかりとなります。ここでは、特に分かりやすいポイントに絞って解説します。
1. 体色と全体の印象
- アジアイトトンボ: オスは鮮やかな青色、メスは褐色から緑色をしています。細身で軽やかな印象です。
- オオイトトンボ: オスは青色、メスは緑色や褐色をしていますが、アジアイトトンボよりややがっしりしており、名前の通り「大きい」と感じられることが多いです(ただし、個体差もあります)。
- モノサシトンボ: オス、メスともに全体的に黒っぽく、腹部に黄緑色や水色の目盛りのような帯状の模様が規則的に並んでいるのが最大の特徴です。他の2種とは明らかに異なる体色と模様です。
→ 見分け方のポイント: モノサシトンボは腹部の目盛り模様で容易に見分けられます。アジアイトトンボとオオイトトンボは体色や大きさで大まかに区別できますが、確実な同定には他の特徴も確認する必要があります。
2. 胸部の模様
イトトンボの胸部の側面には、種類によって特徴的な模様や線が入っています。これは同定において非常に重要なポイントです。
- アジアイトトンボ: 胸部の側面の縫合線に沿って、細い黒い線が入ります。特に胸部側面の一番下の部分(下縁部)に黒い線が見られます。
- オオイトトンボ: アジアイトトンボと同様に胸部側面に黒い線が入りますが、アジアイトトンボよりも線が太く明瞭である場合が多いです。特に胸部側面の真ん中より少し下にある縫合線(側縫合線)に沿った黒い線が太く、下縁部の線も目立ちます。
- モノサシトンボ: 胸部は黒っぽい地に、目立つ帯状の明るい色(黄緑色や水色)の模様が入ります。この模様は他の2種には見られない特徴的なパターンです。
→ 見分け方のポイント: モノサシトンボは胸部の模様が全く異なります。アジアイトトンボとオオイトトンボは胸部側面の黒い線の太さを比較すると、オオイトトンボの方が線が太い傾向があります。
3. 腹部の模様
腹部(長いお腹の部分)の各節に見られる模様も同定のポイントになります。
- アジアイトトンボ: オスは腹部の第8節と第9節(先端から2番目と3番目の節)が特に鮮やかな青色になり、他の節の黒い部分とのコントラストがはっきりしています。メスは全体的に褐色や緑色で、黒い模様が入ります。
- オオイトトンボ: オスはアジアイトトンボと同様に腹部の第8節と第9節が青くなりますが、青色の範囲がやや広いことがあります。メスもアジアイトトンボに似ていますが、腹部の模様のパターンが少し異なります(図鑑で詳細なパターンを確認すると良いでしょう)。
- モノサシトンボ: 腹部の各節に、尺のように規則的な帯状の明るい模様(黄緑色や水色)が入ります。この模様は、腹部全体が青くなるアジアイトトンボやオオイトトンボとは決定的に異なります。
→ 見分け方のポイント: モノサシトンボは腹部の目盛り模様が特徴です。アジアイトトンボとオオイトトンボのオスは腹部先端近くの青い部分で区別できますが、メスの区別は少し難しい場合があります。
4. 翅の縁紋(えんもん)
翅の先端近くにある小さな色のついた斑点を縁紋と呼びます。これも重要な識別点です。
- アジアイトトンボ: 翅の縁紋は黒色です。
- オオイトトンボ: 翅の縁紋は黒色です。アジアイトトンボとオオイトトンボの縁紋の色は同じ黒色で、この点では区別できません。
- モノサシトンボ: 翅の縁紋は、他の2種のような黒色ではなく、白色や明るい色(淡い色)をしています。
→ 見分け方のポイント: 翅の縁紋の色を見れば、モノサシトンボ(白色)とアジアイトトンボ・オオイトトンボ(黒色)を簡単に区別できます。アジアイトトンボとオオイトトンボの間では、縁紋の色では区別できません。
生態について
これらのイトトンボは、水生昆虫を捕食し、水辺の植物に卵を産み付けます。活動時期は種類や地域によって異なりますが、一般的に春の終わり頃から秋にかけて見られます。モノサシトンボは他の2種よりやや遅れて出現し、初夏から秋にかけて活動することが多いようです。幼虫(ヤゴ)は水中生活を送り、小さな水生昆虫などを捕食しながら成長します。
観察のコツと注意点
- 観察場所: 公園の池や沼、流れが緩やかな小川、湿地など、水生植物が生えている場所を探してみましょう。特に、水面から突き出た植物の茎や葉、枯れ枝などに止まっていることが多いです。
- 観察時間: 晴れた日の午前中から午後にかけて、気温が十分に上がってから活動が活発になります。
- 近づき方: イトトンボは驚きやすいため、急な動きは避け、ゆっくりと近づくようにします。望遠機能のあるカメラや双眼鏡があると、驚かせずに観察できます。
- 観察の注意点: 水辺は滑りやすかったり、足場が悪かったりすることがありますので、観察に夢中になりすぎて転倒したり、水に落ちたりしないように十分注意してください。また、むやみに捕まえたりせず、自然な姿を観察することを心がけましょう。イトトンボを傷つけないよう、優しく観察してください。
まとめ
アジアイトトンボ、オオイトトンボ、モノサシトンボは、都市部の水辺で比較的よく見られるイトトンボですが、それぞれに明確な違いがあります。
- 腹部の規則的な目盛り模様と白い縁紋があればモノサシトンボです。
- 腹部先端が鮮やかな青色で、黒い縁紋があり、胸部側面の黒い線が細ければアジアイトトンボの可能性が高いです。
- 腹部先端が青色で、黒い縁紋があり、胸部側面の黒い線が太く、ややがっしりしていればオオイトトンボの可能性が高いです。
これらのポイントを意識して観察することで、それぞれの種類をより確実に識別できるようになるでしょう。ぜひ、次の水辺での昆虫観察で試してみてください。イトトンボの繊細な美しさと、種類ごとの違いを見つける楽しさを発見できるはずです。