都市部で見られる身近な鳴く昆虫3種(キリギリス、ヤブキリ、クビキリギス)見分けに迷ったらココを確認
夏が過ぎ、少しずつ秋の気配を感じ始める頃、草むらからは様々な虫たちの声が聞こえてきます。中でも「ギーッ」「シリリリ…」といった存在感のある鳴き声は、多くの人が一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。これらの声の主は、直翅目キリギリス亜目に属する昆虫たちです。
都市部やその近郊でも比較的よく見られる種類として、キリギリス、ヤブキリ、そしてクビキリギスが挙げられます。これらの昆虫は姿がよく似ており、鳴き声も混同されやすいため、図鑑の写真だけではどちらの虫なのか判断に迷うことがあるかもしれません。ここでは、これら3種の特徴、生態、そして確実に見分けるためのポイントを詳しくご紹介いたします。
キリギリス、ヤブキリ、クビキリギスの見分け方
これら3種は、いずれも緑色または褐色を帯びた比較的大きな直翅目の昆虫で、長大な触角を持ちます。成虫は夏から秋にかけて活動し、オスは翅を擦り合わせて音を出すことでメスを呼び寄せます。見分ける際には、体色だけでなく、翅の長さ、メスの産卵管の形状、頭部の形、そして生態的な特徴に注目することが重要です。
キリギリス (Gampsocleis buergeri)
- 特徴: 体長はオスが35-40mm、メスが40-50mm程度です。体色は主に鮮やかな緑色ですが、褐色の個体も見られます。翅は腹部の端よりも少し短いか、ほぼ同じ長さです。特にメスの翅は丸みを帯び、腹部を覆いきらないことが多いです。後脚の腿節には、目立った棘が並びます。メスの産卵管は鎌状に湾曲し、幅が広くしっかりしています。
- 生態: 草原や河川敷、畑の周辺など、比較的開けた日当たりの良い草地に生息します。主に昼間から活動し、日中もよく鳴き声を聞くことができます。食性は肉食性が強く、他の昆虫や小動物を捕食しますが、植物質も摂取する雑食性です。
- 見分けのポイント:
- 翅が腹部の端よりも少し短いか、ほぼ同じ長さである点。
- メスの産卵管が幅広で鎌状に大きく湾曲している点。
- 開けた草地にいることが多い点。
ヤブキリ (Tettigonia orientalis)
- 特徴: 体長はオスが40-50mm、メスが45-60mm程度と、キリギリスよりも一回り大きい傾向があります。体色は緑色または褐色です。翅は長く、腹部の端を大きく超えて伸びています。特にオスでは翅が非常に長く、スマートな印象を与えます。後脚の腿節の棘は、キリギリスほど目立たない場合があります。メスの産卵管は、キリギリスに比べて細長く、あまり湾曲せずにまっすぐ伸びています。
- 生態: その名の通り、林縁、雑木林、公園の茂みなど、木や背の高い草が生い茂る「藪」のような場所に多く生息します。夜行性が強く、日中はあまり鳴かず、夕方から夜にかけて活発に鳴きます。食性はキリギリスと同様に雑食性ですが、樹上や背の高い草の上で獲物を探すことが多いです。
- 見分けのポイント:
- 翅が腹部の端を大きく超えて非常に長い点。
- メスの産卵管が細長く、あまり湾曲しない点。
- 藪や茂みにいることが多い点。
- 主に夜に鳴く点。
クビキリギス (Euconocephalus thunbergi)
- 特徴: 体長はオス、メスともに40-50mm程度です。体色は鮮やかな緑色または褐色です。キリギリスやヤブキリに比べて、頭部の先端が著しく前方に尖っているのが最大の特徴です。この尖った部分は口器(大顎)であり、非常に強力です。翅は長く、ヤブキリほどではありませんが、腹部の端を超えて伸びます。メスの産卵管はキリギリスに似ていますが、少し細く、根元から先端にかけてなだらかに湾曲します。
- 生態: 河川敷や畑の周辺、公園の草地など、比較的開けた草地に生息します。昼間も活動しますが、主に夕方から夜にかけて活発に鳴き、時には午前中まで鳴き続けることもあります。和名の「クビキリギス」は、この強力な顎で茎などを噛み切る様子や、捕まえると噛みついてくることに由来すると言われます。食性は主に植物質で、イネ科植物の穂などを食べることが多いですが、他の昆虫を食べることもあります。
- 見分けのポイント:
- 頭部の先端が鋭く尖っている点。
- 翅が腹部の端を超えて伸びている点(ヤブキリほど長くない)。
- メスの産卵管がなだらかに湾曲する点(キリギリスほど幅広でない)。
これらの特徴をまとめると、以下のようになります。
| 特徴 | キリギリス | ヤブキリ | クビキリギス | | :----------- | :--------------------------------------------- | :------------------------------------------- | :--------------------------------------------- | | 体長 | 35-50mm | 40-60mm | 40-50mm | | 頭部 | 丸い | 丸い | 先端が鋭く尖る | | 翅の長さ | 腹部と同程度か少し短い | 腹部を大きく超えて非常に長い | 腹部をやや超えて長い | | メス産卵管 | 幅広く鎌状に大きく湾曲 | 細長く、あまり湾曲しない | 細く、なだらかに湾曲 | | 主な生息場所 | 開けた草地、河川敷 | 藪、茂み、林縁 | 開けた草地、河川敷 | | 主な活動時間 | 昼間も鳴く | 主に夜に鳴く | 夕方~夜(午前中まで)に鳴くことが多い | | 食性 | 肉食性強い雑食 | 雑食 | 植物食性強い雑食 |
観察のコツと注意点
これらの鳴く昆虫は、鳴き声を手がかりに探すと見つけやすいでしょう。特に夜間は鳴き声が響き渡ります。
- 探す場所: キリギリスとクビキリギスは河川敷や公園の草丈の高い場所、ヤブキリは木の枝や茂みの上の方を探してみてください。
- 近づき方: 非常に敏感な昆虫です。急な動きは避け、ゆっくりと近づいてください。鳴いているオスは比較的見つけやすいですが、警戒心が強いので、驚かさないように距離を保ちましょう。
- 安全への注意: クビキリギスは強力な顎を持っていますので、素手で捕まえたりすると噛みつかれる危険があります。観察する際は距離を保ち、安全を最優先してください。ヤブキリやキリギリスも不用意に触るのは避けましょう。また、夜間の観察は足元に注意し、安全な場所で行ってください。
- 環境への配慮: 昆虫の生息環境を乱さないよう、植物を踏み荒らしたり、必要以上に捕獲したりしないように心がけましょう。彼らが安心して暮らせる環境を守ることが、持続的な観察に繋がります。
まとめ
都市部やその近郊で聞かれる夏の終わりの鳴き声は、キリギリス、ヤブキリ、クビキリギスのいずれかであることが多いものです。それぞれの体や翅の形、メスの産卵管、そして生息場所や活動時間といった特徴を注意深く観察することで、見分けることができるようになります。
図鑑の情報に加え、ここで解説したポイントを参考に、ぜひ身近な場所でこれらの鳴く昆虫たちの姿を探し、その生態に触れてみてください。きっと、これまでとは違った都市の自然の奥深さを感じることができるはずです。