都市部で見られるヒメアカタテハとアカタテハ 見分けに迷ったらココを確認
都市部の公園や庭先、河川敷などで、春から秋にかけてよく見かけるチョウに、ヒメアカタテハとアカタテハがいます。どちらも翅の黒、白、赤(橙色)の模様が印象的な美しいチョウですが、よく似ているため、初めて観察される方にとっては見分けるのが難しいと感じるかもしれません。
この記事では、ヒメアカタテハとアカタテハを正確に見分けるためのポイントを、写真だけでは分かりにくい翅の模様の特徴を中心に詳しく解説します。また、それぞれの基本的な生態や観察のコツ、注意点についてもご紹介します。
ヒメアカタテハとアカタテハの基本的な特徴
ヒメアカタテハ(Vanessa cardui)とアカタテハ(Vanessa indica)は、どちらもタテハチョウ科に属するチョウです。大きさは中型で、翅を開いた時の大きさはどちらも5cm前後ですが、アカタテハの方がやや大きい傾向があります。
翅の表側は、黒地に鮮やかな赤や橙色の帯模様と白い斑点が入る点で共通しています。しかし、この模様の細部、特に前翅の先端部分や後翅の模様に、種を見分けるための重要な違いがあります。
見分け方のポイント:翅の模様を中心に
両種を見分ける際の最大のポイントは、翅の表側と裏側の模様にあります。
1. 翅の表側の模様
- 前翅の先端(翅頂部)の白い斑点:
- ヒメアカタテハ: 前翅の黒い部分の先端に、いくつかの白い斑点が散りばめられています。特に、翅の一番前の縁(前縁)近くに、比較的大きな白い斑点が複数個(通常3~4個)並んでいるのが特徴です。これらの斑点は、まるで星屑のように見えます。
- アカタテハ: 前翅の黒い部分の先端には、ヒメアカタテハのような多数の白い斑点はありません。前縁近くに大きな白い斑点が1つ(時に2つ)あるのが一般的です。この白い斑点は、ヒメアカタテハのものよりも大きく、目立ちやすい傾向があります。
- 後翅の眼状紋:
- ヒメアカタテハ: 後翅の外側の縁に沿って、黒い縁取りのある4つの小さな眼状紋(がんじょうもん)が並んでいます。これらの眼状紋は、はっきりとしていて見分けやすい特徴です。
- アカタテハ: 後翅には、ヒメアカタテハのような明瞭な眼状紋はありません。後翅の表側は、根元側の橙色の部分が大きく、外側は黒褐色で、目立った模様はありません。
2. 翅の裏側の模様
チョウが翅を閉じている際に観察できる裏側の模様も、見分けの重要な手がかりとなります。
- 後翅の裏側:
- ヒメアカタテハ: 後翅の裏側は、複雑で美しい迷彩柄になっています。特に、外側の部分は濃淡のある褐色で、4~5個の眼状紋が見られます。これらの眼状紋は表側ほど鮮明ではありませんが、確認できることが多いです。この裏側の模様は非常に個性的で、図鑑などで確認すると見分けやすい特徴の一つです。
- アカタテハ: 後翅の裏側は、根元側が橙色で、外側は褐色を帯び、やや単調な印象です。目立つ眼状紋は通常見られません。根元側の橙色部分に入る黒い斑点の形にも違いがありますが、後翅裏側の全体的な印象(ヒメアカタテハの複雑な迷彩 vs アカタテハの比較的シンプルさ)を把握すると良いでしょう。
まとめると、前翅先端の白い斑点の数と後翅の眼状紋の有無、そして後翅裏側の模様が主な見分けポイントとなります。観察時には、チョウが翅を開いた時と閉じた時の両方の姿を確認することが重要です。
基本的な生態
食性
- ヒメアカタテハ: 幼虫はヨモギ、ゴボウ、アザミ、オオバコなど、身近なキク科やオオバコ科の植物を食べます。成虫は様々な花の蜜を吸いますが、特にアザミやヒメジョオンなどによく集まります。
- アカタテハ: 幼虫はカナムグラ(アサ科)を主に食べます。このため、カナムグラが茂るような場所でよく見られます。成虫は様々な花の蜜を吸うほか、樹液や腐った果実にも集まることがあります。
生息場所と活動時期
どちらの種も都市部の公園、河川敷、空き地、畑の周辺など、開けた環境を好みます。
- ヒメアカタテハ: 日本には春から秋にかけて飛来し、世代を繰り返します。南方から飛来する「渡りチョウ」としても知られており、季節に関係なく暖かい時期に見られる可能性があります。
- アカタテハ: 日本では本州以南で繁殖しており、都市部でも一年を通して見られることがあります(ただし、冬は成虫で越冬するため活動が鈍くなります)。アカタテハは、ヒメアカタテハのような大規模な渡りはしないと考えられています。
観察のコツと注意点
- どこを探すか: ヒメアカタテハは様々な場所で見られますが、アカタテハは幼虫の食草であるカナムグラが生えている場所(河川敷や空き地など)を重点的に探すと見つけやすいです。どちらの種も日当たりの良い場所を好みます。
- 観察のタイミング: 活動的な日中の晴れた日によく見られます。花で吸蜜している時や、地面や葉の上で翅を開いて日光浴をしている時が観察しやすいタイミングです。
- 静かに近づく: チョウは敏感なため、急な動きは避け、ゆっくりと近づいてください。
- 翅の表裏を確認: 可能であれば、翅を開いている時(表側)と閉じている時(裏側)の両方の姿を観察できるよう、少し時間をかけて待ってみましょう。
- 無理のない範囲で: チョウを追いかけ回したり、捕まえたりする必要はありません。彼らの自然な姿を、距離を置いて観察するだけでも多くの発見があります。安全のため、観察場所に危険がないか確認しましょう。
まとめ
ヒメアカタテハとアカタテハはよく似ていますが、前翅先端の白い斑点の数、後翅の眼状紋の有無、そして後翅裏側の模様に注目することで、確実に見分けることができます。
都市部や近郊でも見られる身近なチョウですので、ぜひこれらのポイントを参考に、じっくりと観察してみてください。一つ一つの特徴を確認していくことで、これまで見過ごしていたチョウたちの多様性や美しさに気づき、昆虫観察がさらに興味深いものになることでしょう。
もし見分けに迷った場合は、スマートフォンのカメラで撮影し、家に帰ってから図鑑やインターネットの情報と見比べてみるのも良い方法です。身近な自然の中で、新しい発見を楽しんでください。